義兄弟パロ-6

あれから町中に鬼仁会がうろついているのを確認し、総出でマキムラマコトを探していると推測した。ここまで人手を割くとなれば、随分と大きな背景が伺える。大金が動いているのか、はたまた極道に喧嘩を売るようなことをしたのか。近江連合の二次団体という情報まではつかめたが、あまり目立つのもよくないと桐生は早々に蒼天堀から離れて時間をつぶし、李からの連絡を待った。
李はきっちり三時間後に連絡をいれた。滋賀まで逃げてくれたらしい。追手もなくヤサに避難しているというので桐生も急いでむかった。
桐生が所持する物件は関西にもいくつかある。こちらの知り合いに売り飛ばそうと思っていたが、まだ契約しないでよかったと安堵する。近江連合も東城会もまだ桐生一馬という存在は知らないはずだ。ここがバレることもない。
雑居ビル一棟丸ごと桐生が所有している。そのなかのつぶれたスナックがまだ借り手がいないため空き家だった。二人ともそこに身を隠してくれたらしく、リラックスした様子で桐生を迎える。少し埃臭いが電気も水道も使える状態だ。
「おう。無事やったようやな」
「ああ。そっちは怪我してねえか」
差し入れがてらにコンビニで買ってきた食料をテーブルに置く。大阪から離れたとはいえ、この近辺も近江連合があちこちにいるはずだ。あまり外出してほしくないため、大目に買い込んだ。
「なんともない。しかし、なんやったんや。あれは」
「俺もまだ全然だ。ただ、その子が狙われてるのだけはたしかだな」
「……え?」
ただ自分の兄と会いたいためだけに蒼天堀から出てきたマコトにとって、それは意外な言葉だった。まだ李も詳しく話していないらしい。ただでさえ盲目で不安な世界にいるというのに、さらに恐怖に脅かす必要もなかったのだろう。李からの横目が刺さるが、あまり配慮している状況でもないかもしれない。
ソファでゆっくりとくつろいでいたはずが、マコトは身体を硬直させ、縋るようにしろ杖を握りしめていた。
「あまり怖がらせたくはないが、今はとにかく情報がほしい。だから色々聞かせてほしいんだよ。じゃねえと、神室町だってあぶねえかもしれない」
「ど、どういうことですか?」
「さっき、ほぐし快館であんたを狙う殺し屋が来た」
「……え」
回りくどく言っても仕方ない。それに恐怖を感じることは悪いことではない。警戒心をもってくれればそれなりに自衛もできる。
「そいつは関東に拠点がある東城会の人間だった。そんでそのあと近江連合のヤクザまであんたを探していてな」
「え、な、なんで」
「そう。それが知りたい。マコトさん。あなた、ヤクザに狙われる理由、心当たりはないですか?」
「ないです!」
はっきりとした否定だ。当然ではあったが、万一というのもあった。懸念材料は一つ一つつぶさなければならない。
「一応確認しただけです。疑っちゃいねえ。ただ。もう一つ聞かせてほしい。その眼はヤクザ関係じゃないんですか」
「……」
「後天性なんでしょう。事故か心因性のものなのか」
辛そうに下唇を噛むマコトに後者だと察する。あまり追求したくはないがハッキリしなければならないことだった。
「ヤクザやない。相手は韓国系マフィアのせいや。あんまり聞くな、ボケ」
李がきつい視線を向けながらフォローに入った。デリケートな話題なのだろう。海外マフィアと聞けば、なんとなく嫌な予想はできる。
「そうか。悪かったな。辛いことを聞いてしまって、すまなかった」
「いえ……」
「となると、ますます訳がわかんねえな」
自分もソファに腰を下ろし、袋から弁当や飲み物をとりだす。なにが好みかわからなかったから適当におにぎりやお菓子も買っておいた。
「腹は減ってないですか?握り飯とか、パンとかありますけど」
盲目では弁当を食べるのも難しいだろうと手で食べられるものも用意した。李や自分には脂っこい弁当がある。
「あ、じゃ、じゃあ、おにぎりを」
「他になにか欲しいものがあれば言ってください。これから何が起きるかわかりませんから」
「おい、桐生。あまり不安にさせるなや」
李はマコトを可愛がっているらしい。けれどそのせいで危機管理が危ぶまれるのは避けたい。ペットボトルのお茶を開封してマコトに持たせると桐生は李に視線を動かした。
「今明確にわかっているのは、マコトさんが命を狙われていることなんだ。ただでさえ目が見えなくて不安な中、情報をぼかされてた方が余計に怖いだろ」
「そうかもしれんが」
「だ、大丈夫です。店長。私も、なにもわからないのはイヤです。なにが起きているのか、私、ちゃんと知りたいんです。いま、いったい、なにがおきているんですか?」
「……桐生、お前が知っていること、もうちょい話してくれ」
焼き肉弁当を掴んだ李に頷く。
ほぐし快館で李と別れたあとのことを端的に説明する。その後すぐに鬼仁会が襲ってきたこと、やはりマキムラマコトを狙っていたこと、人海戦術をつかってきたこと。東城会と近江連合双方から狙われていることを言うと、李もマコトも思い当たるフシが無いと眉間に皺を寄せるばかりだった。
「コロシが絡んでなければ社長を脅す人質にするんじゃねえかって思ったんだがな」
「え、えっと。社長って、わたしのお兄ちゃんのことですよね?ど、どういうことですか?」
「神室町で仕事をしているとどうしてもヤクザが絡んでくるんです。で、立華不動産は割と嫌われていて、東城会が排除しようとする動きがたまに見られるんですよ」
「せやからマコトを使って、兄貴を脅そうと?」
「っていう話なら納得できたんだが…近江が絡む理由がわからねえ。それに東城会はマコトさんに対する情報がおかしかった。なんでか売春の斡旋をしてたことになってたぜ」
「はあ?」
身に覚えがない李にとってそれは驚くしかない話だった。小刻みに頭を左右に振って身の潔白を訴える。桐生もわかっているとばかりに頷いた。
「どういうことや」
「完全なるデマをつかまされてたってなると、それにも意味があるかもしれねえな。まあそっちはあとで探りいれる」
「随分悠長やないか?」
「……」
優先するべきことだろう。そうきつい目をむける李に桐生はのり弁を取り出すのをやめた。それから大きく息をつく。少し考えをまとめるように間をおいて二人を見据えた。
「さっき嫌なことを聞いたから俺も正直に言う。さっきの殺し屋は俺の兄だ」
「……あ?」
「といっても血のつながりは半分だし、つい最近始めて会ったんだよ」
自分が生まれる前に離婚していたためその存在を知らなかったこと、マコトたちに会ってすぐに兄とも会えたこと。東城会の人間らしいことをつらつらと説明する。隠すほどのことでもないし後々発覚してこじれるような事態は防ぎたい。
「ちゅうことは、お前とさっきの殺し屋はほぼほぼ他人っちゅうわけか」
「ああ。大体、あの人、人を殺したことがなさそうだったからな。話せばなんとかなるかもしれない。あとで問い詰める」
「そういや素人っぽかったな」
李も裏社会の人間だったらしい。マコトが韓国マフィアのせいで失明したことを知っていたのだ。当事者でないにしろ何かしら関わっていたと見える。
「気になるのはタイミングだ。俺がマコトさんを見つけてすぐに東城会も近江も動いた。どうもおかしい。考えたくないがウチの人間がどこかに情報を流してるかもしれねえ」
「……たしかに、どっちか片方ならまだしも関東と関西のヤクザが同時にうごくっちゅうのは、おかしな話や」
「東城会が動いてるとなるとこのまま神室町に行くのも危なっかしい。俺が全体像を把握するまで、神室町に行くのはナシにしてほしいんだ」
マコトを狙っていたとなれば立華がなにかしら事情を知っているのかもしれない。なんとか事態を咀嚼しようとするマコトに眉尻がさがる。こんな危険な目にあうなんて思いもしなかっただろう。何とか彼女に被害がかからないうちに再会させてあげたかった。
「そうだ。電話だ」
先日立華からも電話をすればいいと言われていたのを思い出す。もうすっかりと夜になってしまったが、あの立華のことだからまだ起きているはずだ。
カウンターにいくと最新型のコードレスホンが置かれてあった。立華に電話をかけるとすぐにつながる。
『はい』
「俺だ。桐生だ」
『桐生さん。なにかありましたか』
本来ならばすでに神室町についていてもおかしくない時間だ。早く連絡するべきだったなと反省しながらマコトたちのもとに戻る。
「ああ。説明する前に、いまはあんた一人か?」
『え?……ええ。私一人です』
「ちょっと野暮用があるんだが、先に妹と話してやれ」
事情の説明もしたい。だが、いまかいまかと再会を望む兄妹の願いをかなえるのが先だった。少しでもマコトの不安を解消させてやりたかったし、立華にも安心してほしかった。桐生はそのまま受話器をマコトに持たせてやる。
「持てますか?いま、あなたの兄さんと電話がつながっている。話すといい」
「え、……ほ、ほんとうに、お兄ちゃんなんですか?」
「聞いてたしかめてみてください」
恐る恐る受話器を耳に当てると、立華が何かを言ったのだろう。途端、涙を滲ませるマコトに桐生と李は目は目配せをし、弁当を持って別のテーブルに移動するのだった。

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