義兄弟パロ-2

不動産をあつかっていると人を探すのはむずかしくない。大量の顧客情報をもっているからだ。それは大阪蒼天堀でも同じである。桐生は先代社長の知り合いの店に顔をだした。相手も桐生の顔を覚えていたので話が早い。事情を説明するとすぐに顧客リストをもってきてくれた。
山になった書類の束にほほをひきつらせる。――いや、いい。わかっていた。自分の事務所にだってこれ以上の書類を保管している。これくらいなんだというのだ。
「まあうちのはこんだけや。知り合いのところにも話とおしちょいたるから、見終わったらそっちにも顔出せばええわ」
「すみません。助かります」
「先代には世話になったからなあ。そういや、こっちにもいくつか物件もっとったろ。ついでに見に行くんか」
「ええ。でも売り飛ばすとおもいます。俺には東京だけで手いっぱいなもんで。よかったら買ってくださいよ」
「う~~ん、立地にもよるわなあ。でもまあ、余裕はあるから、今度見せてや」
「はい。ぜひ」
ぺらぺらと書類をめくる。「マ」だ。「マ」をひたすら探す。「マキムラマコト」「マジマゴロウ」どちらかが見つかれば桐生の勝ちだ。
数年前も同じ方法で兄を探した。自分の店の顧客リストを洗い終われば、同業者のリストを見せてもらった。だがどこを探してもハズレだった。おそらく兄は東京にはいない。それらしい人物を見つけたら連絡してもらうように頼み込んだが、その連絡は一つもくることはなかった。
「なんや、最近、こんぴゅーたっちゅうのがでたんやろ。知り合いが、今後はこういうのも全部そいつが管理するようになるんやっと。わけわからんよなあ。どうやってあの箱にこの紙束がはいんねん」
「それはまた、なんていうか、ついていけねえっすね」
「なーにいうてんねや。アンタまだ若いんやから、そないなこというたらあかんて!せや。今日あいとるか。ええ店あるから遊びに行こうや。蒼天堀も神室町に負けてないところ見せたる」
立華からは好きなだけ捜索していいと言われている。
「明日には帰るんで、夜更かしは勘弁してくださいよ」
「はっはっは!安心しい。高い店や。長居なんかできるかい」
そうして時間たっぷり使っても成果のなかった桐生は蒼天堀でも名の知れたクラブに連れていかれた。店構えからして派手な『グランド』というキャバレーである。先代社長にも夜遊びは教わった。クラブもバーもつれていかれ、審美眼を鍛えられた。付け焼刃だがたまには役に立つ。立地、外観、内装。じっくりと査定する。確かに神室町のキャバレーにも負けていない。
「前はどうもカビがはえたような古臭さがあったが、支配人が変わってからええかんじになったんや」
「結構人気なんですね」
「いま関西で一番の人気店ともいわれとる。キャバレーは落ち目やがようやっとるよ」
神室町のキャバレーも人気は落ち気味だ。グランドのような大型の店は人が集まりにくくなり、改装して小さなテナントをいれる動きもあった。そんな物件を多く見てきた。それゆえ桐生の目にもいい店なのがわかる。高い酒をなめさせてもらいながら桐生はあらゆる情報を仕入れていた。神室町に負けない歓楽街ゆえ、こちらに変化があれば神室町にも変化がおきる。もちろん逆もありえる。大金を動かす仕事なだけあって情報は命だった。お互いに情報を交換し合い、対策を教えあう。
「こっちは近江がおるからのお。血の気が多いのがほとんどや」
「神室町も似たようなもんです。武闘派と名乗っていイキリちらしていい迷惑ですよ」
「俺もいつ刺されるかわかったもんやない。お前は若いんやから、煽りに負けたりするなよ」
「――ええ」
わかっている。まるで自分の土地だとばかり街中を闊歩する東城会の人間が嫌いだ。特に神室町をシマだとのたまう堂島組は先代社長の仇である。敵討ちしてやりたいが、先代社長が死ぬ前に「犯罪者にはなるな」と制したのであきらめた。ヤクザになるかもしれなかった自分をまっとうに生きられるように育ててくれたのだ。そんな恩を仇で返すような真似はできない。――せいぜい、法が許せる範囲で嫌がらせをするくらいだ。
店内がざわついた。騒音のほうに振り向けば、酔っぱらった客が騒いでいるらしい。黒服が飛んで止めに入るも、荒事に慣れてないのか弾き飛ばされてしまった。
「なんだ?ヤクザか」
「微妙やなあ。ここはカタギもヤクザも見分けつかん!」
げらげらと笑っている場合だろうか。たしかに桐生も蒼天堀にきてからヤクザとカタギの見分けがつかなくなっていた。カタギも言葉使いが荒かったり喧嘩っ早かったり、神室町とは違う血の気の多さに面を食らった。
「それより、ええもん見れるで。ほら、見てみぃ。アレがグランド隠れ名物の支配人や」
指さす方向に目をうごかす。
長身の男が現れた。タキシードに束ねた髪、そして目をひく眼帯の男。やや痩せこけた頬に笑みを張り付け、暴れている客に対応を始める。
「……」
――似ている。
桐生は目を細めて支配人を見つめた。似ているのだ。あの痩せた顔が、母親に似ている。どくどくと心臓がなる。背中に冷たい汗がながれた。意識が支配人に集中していく。
都内で兄を探し続けた。半分だけ血のつながった兄。母の前夫の顔は知らないから、父親似だったらきっと見つからないと名前で絞った。けれどもし母親似だったとすれば、きっとあんな顔だったのではないか。それくらい支配人の顔は母親に似ている。似すぎていた。
深く考えていると、ワッと歓声があがった。我に返った。どうやら騒いでいた客を落ち着かせたどころか、調子づかせて客全員におごらせる約束をとりつけたらしい。
「おお!おごりや!さ、桐生くん、じゃんじゃん飲もう!」
「え、あ、」
それからの記憶はあいまいだ。すすめられるがまま酒を飲んだせいでつぶれてしまったのだ。気づけばホテルにいた。そばに置かれたメモには走り書きで「おごったるわ!」とだけ記されている。どうやら知り合いがここまで連れてきてくれたようだった。ありがたく甘えることにして、シャワーを浴びることにした。まだ外は暗いが酒臭いまま二度寝する気分にも慣れない。
明朝、知り合いにお礼を言いに行ったら帰宅しよう。また尾田から嫌味を言われるだろうなと、あきらめるようにシャワーに向かった。

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